最低賃金が上がるとどうなる|時給が上がると時間が減らされて困る?メリットやデメリット【税理士監修】
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お金のこと

「最低賃金が上がると困る」
「時給が上がっても時間を減らされる」
毎年行われる最低賃金の見直しについて、パートではさまざまな意見があるようです。
2024年は、過去最高の引き上げにより、全国加重平均として51円アップの1,055円となりました。2025年も、過去最高の引き上げが予定されており、全国加重平均66円以上アップの1,121円となる見込みです。
パートは大半が時給制ということもあり、最低賃金を下回っていないか?と心配になる方も少なくないでしょう。
「ウチの時給、安すぎるんじゃない?」
「最低賃金以下で働かされたり、シフトを削られてしまうこともあるのでは?」
「扶養枠を超えない範囲で働きたいけど、勤務日数・時間は減らさなきゃいけない??」
と思っているあなたも、一緒にチェックしてみましょう!
参照:『労働・賃金・雇用 最低賃金』日本労働組合総連合会
参照:『地域別最低賃金の全国一覧』厚生労働省
もくじ
最低賃金はなぜ上がるのか
最低賃金は、毎年10月ごろに見直しが行われます。最低賃金が上がる理由には以下が挙げられます。
- ・物価上昇による賃金減少を防ぐ
- ・労働者の生活保証
- ・労働条件の改善など
物価高の状況では、これまでの生活水準を維持することすら難しくなります。最低賃金を上げることで日本経済の活性化と発展にもつながるのです。
最低賃金が下がることはあるのか
最低賃金は、毎年の見直しによって引き上げられることが通常です。基本的に、最低賃金が下がることはあまり考えられません。ただし、状況によって「減額の特例」が適用されることはあります。
最低賃金とは?
最低賃金制度とは”最低賃金法に基づき国が賃金の最低限度を定め、使用者は、その最低賃金額以上の賃金を支払わなければならないとする制度”です。
カンタンに言うと、国の法律によって決められたもので、雇い主が従業員に支払わなければいけない賃金の最低限を定めています。
毎年審議によって各都道府県ごとに金額が決められています。
金額の単位は時給で表されていますが、正社員・パート・派遣問わず適用されます。もちろん国籍や性別も問われません。
最新の地域別最低賃金の全国一覧・発行年月日はこちら(厚生労働省のHPがひらきます)
「最低賃金」の対象となるのは、毎月支払われる基本的な賃金です。
実際に支払われる賃金から、下記の賃金を除いたものが基本的な賃金、となります。
▼基本的な賃金以外のもの
1.臨時に支払われる賃金。結婚手当などの慶弔手当、勤続手当など
2.1箇月を超える期間ごとに支払われる賃金。ボーナス、賞与など
3.所定労働時間を超える時間の労働に対して支払われる賃金。時間外割増賃金など、残業代
4.所定労働日以外の日の労働に対して支払われる賃金。休日割増賃金など
5.午後10時から午前5時までの間の労働に対して支払われる賃金のうち、通常の労働時間の賃金の計算額を超える部分。深夜割増賃金など
6.そのほか、精皆勤手当、通勤手当、家族手当など
よく間違いやすいのが5.深夜割増賃金について。
パートだとあまり多くはないかもしれませんが、夜22時~翌朝5時までのお仕事をする場合、お給料=基本的な賃金+深夜割増賃金となります。
最低賃金が適用されるのは、基本的な賃金部分です。

なお、最低賃金を一律に適用すると雇用機会を狭める可能性などがある場合、特例があります。
都道府県労働局長の許可を受けることで、個別に最低賃金の減額の特例が認められているケースです。
▼許可を受けると最低賃金の減額特例がなされるもの
1.精神又は身体の障害により著しく労働能力の低い方
2.試の使用期間中の方
3.基礎的な技能等を内容とする認定職業訓練を受けている方のうち厚生労働省令で定める方
4.軽易な業務に従事する方
5.断続的労働に従事する方
(参照:厚生労働省:最低賃金制度の概要)
上記によって決まっている制度なので、たとえば高校生が働いた場合、や、65歳以上が働いた場合、などで変更はありません。地域別の最低賃金は適用されます。
最低賃金は2種類ある|「地域別最低賃金」と「特定最低賃金」
さきほど”地域別の最低賃金”というキーワードがでてきましたが、最低賃金には、実は種類があるのです。
それが「地域別最低賃金」と「特定最低賃金」です。それぞれご紹介しましょう。
1) 地域別最低賃金
地域と、その地域の産業によって決まる最低賃金です。各都道府県ごとに決まっています。
パート・アルバイトで働く方が気にかけておきたいのはこっちの金額!
都道府県内で働くすべての労働者に対して適用される最低賃金として、各都道府県に1つずつ定められています。業種・職種は問いません。
具体的には、下記の3つを総合的にみて決まっています。
1.労働者の生計費
2.労働者の賃金
3.通常の事業の賃金支払能力
多くの求人サイトで、既に最低賃金が適用されています。念のため、応募時に確認してみてくださいね。
2) 特定最低賃金
次に、特定最低賃金について。
特定最低賃金は、特定地域内の特定産業の中心となる労働者とその使用者に対して適用されます。
たとえば鉄鋼業、電気機械器具製造業などに従事して働く人たちです。限られた産業で用いられています。
都道府県別の最低賃金よりも、より金額を高くすることが必要!と認められた産業に設定されるものです。
現在は、主に各都道府県の特定の産業についてこの制度が適用されています。
これは雇用形態を問わないので、パートタイマー、アルバイト、臨時、嘱託など、すべての労働者に適用されます。
ただし、年齢や就業期間など適用されるかどうかの軸が異なってくるので気を付けてくださいね。
ちなみに、あまり多くはありませんが、地域別最低賃金と特定最低賃金の両方が同時に適用される場合、高い方の最低賃金額が適用されます。

派遣社員の最低賃金は派遣元と派遣先のどちらで決まる?
派遣労働者の場合、派遣元会社の本社は東京都にあるけど、勤め先(派遣先)は埼玉県…ということもありますよね。
派遣の場合、派遣先の都道府県の最低賃金時給が適用されます。
厚生労働省が提示している下記の例も見てみてください。


(参照:厚生労働省:派遣労働者への適用)
最低賃金の計算方法
最低賃金の計算や確認はどのようにすればよいのでしょうか。自分の仕事や、これから応募したい仕事が「最低賃金額以上となっているかどうか」、気になる方も少なくありません。
これは簡単に計算・確認することができます。
最低賃金の計算は、賃金額を時間当たりの金額に換算し、最低賃金(時間額)と比較します。ここでは、パートに多い地域別最低賃金の、それぞれのお給料の形態別にご紹介します!
1.時間給制の場合
この場合はカンタンですね。各都道府県の最低賃金より下回っていないかを確認します。
時間給 ≧ 最低賃金時間額
例)東京都で働くAさんの場合:時給1100円
令和4年9月末まで最低賃金は1072円なので、最低賃金を下回っていない。
令和5年10月から最低賃金は+41円を加算した1113円となるので、最低賃金を下回る。
2.日給制の場合
日給を、1日の所定労働時間で割ると、1時間当たりのお給料がわかります。1時間あたりの賃金が最低賃金を上回っているか確認できます。
日給÷1日の所定労働時間 ≧ 最低賃金額(時間額)
例)東京都で働くBさんの場合:日給8,600円、1日8時間勤務
8600÷8=1075 、時給換算すると1075円。
令和4年9月末まで最低賃金は1072円なので、最低賃金を下回っていない。
令和5年10月から最低賃金は+41円を加算した1113円となるので、最低賃金を下回る。

3.月給制の場合
月給も時給に換算してみましょう。
月給÷1箇月平均所定労働時間 ≧ 最低賃金額(時間額)
例)東京都で働くCさんの場合:月給160,000円、残業代40,000円、所定労働時間は160時間
200,000÷160=1,250 なので、時給換算すると1,250円
…と思いがちなのですが、最低賃金は基本的な賃金に適用されるものなので、月給の中に残業代などが含まれていないか注意が必要です。
月給16万円=基本的な賃金12万円+残業代4万円であれば、
120,000÷160=750 なので、最低賃金を下回っています。
このように勤務時間と最低賃金で計算し、下回っていないかを確認するようにしてみてください。

4.出来高払制その他の請負制によって定められた賃金の場合
請負・出来高制・歩合制の場合、賃金の総額をその計算期間に労働した総労働時間数で割り、時間当たりの金額に換算して最低賃金額と比較します。
例)東京都で働くDさんの場合:143,650円
歩合給が136,000円、時間外割増賃金が5,100円、深夜割増賃金が2,550円。
Dさんの会社の1年間における1か月の平均所定労働時間は月170時間、月の時間外労働は30時間、深夜労働が15時間。最低賃金は時間額850円です。
まず、基本的な賃金を計算しましょう。除外される賃金は、時間外割増賃金・深夜割増賃金。
143,650円-(5,100円+2,550円)=136,000円
136,000円が基本的な賃金です。
この金額を、月間総労働時間数で割って、時間当たりの金額に換算ます。
136,000円÷200時間=680円
最低賃金が850円だったので、最低賃金を下回っています。
5.上記(1)、(2)、(3)、(4)の組み合わせの場合
例えば、基本給が日給制で、各手当(職務手当など)が月給制などの場合は
それぞれ上記の式により時間額に換算し、それを合計したものと最低賃金額(時間額)を比較します。
パートではあまり発生しないので説明は割愛しますが、もし該当する方がいらしたら下記のサイトをみてみてください。

最低賃金が上がるとどうなる?パートのメリット
最低賃金が上がることで、パートが得られるメリットは、「収入が増える」ことや「成長機会が増える可能性がある」ことなどです。
最低賃金の金額で働いていた人の場合、当然ですが収入が増えます。
昨今の物価高では、光熱費も上がり、消費税も増税し、支出は増えるばかりです。最低賃金の引き上げによって、収入が上がるのは大きなメリットといえます。また、賃金の引き上げにより、企業側は効率や生産性を高めて働いてもらいたいと考えます。パートを対象にした研修や教育プログラムが実施されれば、スキルアップや仕事に対する学びの機会が増えるでしょう。
最低賃金が上がるとどうなる?企業のメリット
最低賃金が上がることで、企業側はパートなどで働く人のモチベーションが向上するメリットを受けられます。特に最低賃金ギリギリの金額で働く人は、同じ時間働くだけで収入が多くなるため、モチベーションが上がりやすくなります。特に、従業員の雇用形態がパートを中心とする企業では、企業全体としてモチベーションが向上しやすくなります。
最低賃金が上がるとどうなる?パートのデメリット
最低賃金の引き上げは、パートなどにとってはよいことばかりとイメージするかもしれませんが、実はデメリットもあるのです。主なデメリットは以下のとおりです。
- ・これまでどおり働くと扶養内に収まらなくなる
- ・就業日数や労働時間を減らされる可能性がある
これまでどおり働くと扶養枠内に収まらなくなる
時給が上がることで今までと同じ働き方をしていると扶養枠内に収まらなくなる人もでてくるでしょう。その場合は、就業日数・時間を制限することになります。保育園に入園している場合は就業日数・時間が通園規定に満たなくなる可能性もあります。
就業日数や労働時間を減らされる可能性がある
特に個人事業や小規模店舗の場合、時給が上がることで人件費が高くなり経営が難しくなる場合があります。人件費の負担増大から、就業日数や労働時間を減らされる可能性があるのです。そうなると、単純にパートとしての収入が減る可能性もあるでしょう。
就業日数・時間が減ると、社会保険や雇用保険の加入条件にもかかわってきます。
また、時給が上がったことで働きぶりに過度な期待がされるのでは?という声も聞こえてきます。パートだと割り切って働きたい人には希望と変わってきてしまうこともあるかもしれません。
最低賃金が上がるとどうなる?企業のデメリット
最低賃金の引き上げによって企業が受けるデメリットの代表例は以下の点です。
- ・人件費が増える
- ・人材確保が難しくなる
- ・人材不足が深刻化する
- ・正社員のモチベーション低下する可能性もある
人件費が増える
最低賃金が上がると、人件費の負担が増大します。とくに、最低賃金ギリギリの金額で雇用している従業員が多いと、その分人件費が増えることになります。
人材確保が難しくなる
最低賃金が上がると、人件費のコストが増えるため、採用コストを十分にかけられなくなる可能性もあります。また、最低賃金引上げに伴い賃上げを行ったとしても、同じ地域の他社でも賃金の引き上げが行われるため、賃金引上げによる差別化はしにくいといえます。
人材不足が深刻化する
最低賃金が上がると、人材不足が深刻化する恐れもあります。配偶者の扶養内で働いているパートは、賃金が引き上げられることで、これまでよりも少ない時間で扶養内で働ける上限額に達してしまうため、労働時間の調整をしなければなりません。パートなどが労働時間を減らすことにより、人材不足が悪化します。そのうえ、人件費の増大により採用コストをかけられない状況になると、人材不足はより深刻化してしまうでしょう。
正社員のモチベーションが低下する可能性もある
最低賃金が引き上げられることにより、正社員と非正規社員の賃金の差が小さくなればなるほど、正社員が不満を抱える可能性があります。正社員のモチベーションが低下すると、離職の原因にもなりかねません。パートなどの賃金引上げを行う際は、正社員に対する配慮も検討しましょう。

私の仕事、最低賃金以下…どうしたらいい?
さて、上記の計算で「あれ?!私のお給料、最低賃金以下じゃない?」と分かった場合。どうしたらいいのでしょうか?
1.職場の上司に相談する
まずは雇い主となる人に相談してみましょう。
最低賃金を下回る雇用契約は法的に認められません。最低賃金と同額の賃金を求めることができます。
また、最低賃金引上げ前は問題なかったけど、最低賃金引き上げ後は下回っている!という時は該当期間の差額を請求することができます。
2.会社と話をしても解決しなかった……労働基準監督署に相談を
最低賃金を下回る賃金は法律違反。知らなかったでは済みません。
意図的に最低賃金を下回る金額を設定しているなど悪質な場合には、罰金が科されます。
都道府県労働局(労働基準監督署、公共職業安定所)に問い合わせましょう。
最低賃金に違反した企業はどうなる?
最低賃金には、罰則規定が設けられています。最低賃金への罰則規定は、50万円以下の罰金です。
まず、最低賃金に対する違反に対して通報があった場合、労働基準監督署が行政指導(是正勧告)を行います。行政指導を受けた企業側は、速やかに最低賃金額との差額を労働者側に支払います。ただし、行政指導を受けても最低賃金に違反するような企業は、罰則が適用されるため、罰金を支払わなければなりません。また、悪質性が認められると、企業名が公表されることもあり、社会的な信用を大きく失うことになるでしょう。
まとめ
今回は、「最低賃金が上がるとどうなるか」についてご紹介しました。
ここまでの内容をまとめると、
・最低賃金時給は毎年見直しがあり、特別な業種でない限り都道府県ごとに決まった金額に定められています。
・最低賃金未満の賃金設定をしている場合、まずは職場に相談をしてみましょう。
・扶養枠内で働いている方は、一度ご自身の収入と勤務できる日数・時間を計算してみることをおすすめします。
保育園など保護者の勤務日数・時間により規定があるものに影響が出ないか確認しておくことも必要です。
いずれも、早めに確認をしておきましょう!
これからお仕事を探す方は、社会保険・雇用保険や扶養に関わるので、時給を確認しながら希望の日数・時間を考えてみてくださいね。
以下も参考になれば幸いです。
▽厚生年金について
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▽所得税について
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▽配偶者控除について(2010年か変わった配偶者控除の変更点とは?)
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▽扶養枠や税金の壁について
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この記事の監修者
山田 稔幸氏(山田稔幸税理士事務所 代表)






















